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5年ぶり「M-1」に感じた意味 -「M-1グランプリ2015」レビュー-

2015年もあとわずか。
これから、年末年始のネタ番組ラッシュが始まるかと思いますが、先日プチ感想を書いた
M-1グランプリ 2015」について、3週間遅れで、長めのレビューを(^^)。

前回も書きましたが、今大会は、ハライチ以外の8組が爪痕を残したといってもいい大会でした。
第10回大会までの、9組中半分近くがウケずに決勝の舞台を去っていった光景とは一変。
これは、予選での選出傾向が(いい方向に)変わったのが最大の理由といっていいでしょう。過去の大会での、「面白さ重視」というより「ベタは敬遠」「変わったことをやるヤツ重視」といった予選審査の傾向から大きく変化。また、これまでは、決勝へストレートで行く8組中非吉本勢は最大でも2組だったのが、今回4組いたという所にも大幅な変化が見て取れました。

決勝も、審査員のメンバーが一新。
これまでのベテラン審査員の品定めのような視線で生まれる緊張感を懐かしむ声も一部にはあるようですが、ともすると、「笑い」を楽しむ意味ではマイナスに働きかねない重しがとれたことで、観客が「笑いやすい」状況が作れたのではと感じました。

ただ、テレビで見ている印象だと、少し、観客の反応が良過ぎた感も。
理想を言えば「小笑い」「中笑い」「大笑い」という段階の反応だと、面白さを感じとるバランスとしては最適だと思うのですが、前説がよっぽどよかったのか(^^)(HGやバイク川崎バイクが担当したみたいですが)、「大笑い」と「特大笑い」しかなった感じで、ちょっと「ウケ過ぎ」に感じた場面も間々ありました(審査員はあまりそれに引っ張られた感じはありませんでしたが)。

いずれにせよ、大会全体としては、非常に盛り上がった素晴らしい大会。
昨年の「THE MANZAI」では、over40の博多華丸・大吉が優勝したことで、若干、賞レースの頭打ち感を感じましたが(それだけ華丸・大吉の力が抜けていた、ということもありますが)、今回の内容は、今後にも期待が持てる内容でした。
実際、決勝の点数も、最終決戦3位の銀シャリと4位のタイムマシーン3号の差はわずか2点差、さらに5位のスーパーマラドーナとも5点の差。審査員が変わったという事情があるにせよ、決勝1本目1位のジャルジャルと、最下位のハライチの点差ですら、審査員一人あたりに換算すると5点ぐらいにおさまっており(過去のM-1だと、大体10点前後だった)、その意味でも、高いレベルで差の無かった大会と言えると思います。

ちなみに、今回決勝に進出した9組中、昨年の「THE MANZAI」の決勝(12組)にも出場したのは、馬鹿よ貴方は・和牛・トレンディエンジェルの3組のみ。
また、2015 M-1の準決勝以上(28組)と、2014 THE MANZAIの認定漫才師(50組)の両方に入っているのは、上記3組に加え、ハライチ・さらば青春の光・ダイアン・笑撃戦隊・囲碁将棋・学天即・かまいたち・チーモンチョーチュウ・POISON GIRL BANDの12組でした。

さて、各コンビのネタについてですが、今大会は見ている人のお笑い観によって、かなり評価が分かれたと思います。要は「何を基準にしていてお笑いを見ているか」によって、その評価が変わる感じ。
自分個人の見方としては、「ボケの角度」「やりとりの自然さ」「『考えて作った感』を感じさせない」「間など、漫才師としての技巧」などを基準にして見ていました。
ということで、自身のつけた得点は、番組での実際の順位とは多少違いましたが、以下、個人的得点順(下から上へ)に並べた、各コンビに対するレビューを(なお、追加で付けた審査員の点数は、審査員一人あたりに換算した点数)。


ハライチ…84点(審査員:87.6点)

今大会、唯一こコケる格好になったコンビ。
ただ、ネタとしては悪くなかったと思う。この結果になってしまったのは、やはり、岩井の噛み倒し。「誘拐犯なのに、ちょっと愉快な犯人(あるいは、抜けている所がある)」という設定が面白いネタのはずが、岩井がセリフを言うこと自体でいっぱいいっぱいだったため、サイコっぽい所がクローズアップされてしまい、見ている側を引かせてしまう形になってしまった印象。
これまでのノリボケ漫才がフリになっているとも言えるネタだったので、できれば、多くの人が初見の段階で結果を残したかったところだが、厳しく言えば、岩井のプレイヤーとしての現時点での力量が露わになってしまった(噛みだけでなく、表情や醸し出す雰囲気も含めて)。
ただ、そこが強化されれば、また、ハライチとして新たな笑いを生み出す可能性もある。果たして、来年、またリベンジの舞台に立つ気概を持っているかどうか。


馬鹿よ貴方は…87点(審査員:87.9点)

昨年の「THE MANZAI」に続く、決勝進出。ファラオの醸し出す雰囲気は、これだけ数多の芸人がいるなかでも、やはり独特。一方の新道も、芸人でありながら、格好・喋り方にかなり素人っぽいところを残す。となると、2人のやりとりも、自然と独特なものに。
ネタは「ボケとツッコミのやりとり」というより、「コミュニケーション不全のやりとりを見せ続ける」といった趣(シュールとも、また違う)。ファラオのセリフが全て面白い、というわけではないが、「馬鹿よ貴方は」の良さを引き出すという意味では、3打数1安打ぐらいがちょうどいいような気も。ただ、「これはやられた」といった類のボケが、もういくつか欲しかった。
ちなみに、あの「大丈夫」連呼は、「放送していい」レベルは超えていたと思う(^^)。


ジャルジャル…90点(審査員:92.7点/最終決戦 3位)

審査員の得点と、自分の見方が一番離れていたのが、このコンビ。
断っておくが、決して、つまらなかったとは思わない。多種多様なボケパターンがあり、「伏線をはっておいての回収」という工夫もあった。
ただ、どうしても「考えて作った」感が拭えなかったのが、あまり高い点数にしなかった理由(ネタ終わりのコメントでの、「普通のコンビが頑張ってネタ書いています」みたいなアピールも不要だった)。
構成的にも、中川家・礼二も指摘していたが、ボケを挟み込むことありきのネタ進行となっていて、ネタ全体としての流れは感じられなかった。もちろん、漫才の場合、強引に、自分たちのやりたい設定に持ってくるというパターンもあるだろうが、それでも、できれば「まずは話したい話があって、その上に、おかしなやりとりを持ってくる」という形はあってほしいところ。
それもあって、最終決戦では、わずか2本目にして、すでに「1本目と同じか」感を、見ている側に感じさせてしまったのだと思う。もし、ストーリーもあり、かつ多種多様なボケパターンとのリンクもあるネタを作ることができれば、今よりもさらに数段面白くなるのでは。
また、演者として、「もう、ええわ」と言われた後の福徳の表情は素晴らしかったが、後藤のセリフを言ったときの表情にもう少しバリエーションがあればとも思った。


銀シャリ…91点(審査員:90.9点/最終決戦 2位)

プレビューでも書いたが、橋本の言葉のチョイスは秀逸であるものの、その前に放たれる鰻のセリフが平板であることが多いため、いかに鰻のボケにインパクトがあるものが多いかがポイントだと思って見ていた。
結果、鰻のセリフ自体にインパクトがあるワードが多いとは言えなかったものの、今まではあまりなかったコンビネーション芸(「そ~」で「味噌」)もあり、これまでとは別な面も見せた舞台となった。
ただ、以前からやっているネタとはいえ、このご時世に、調味料の「さしすせそ」というテーマは、ちょっと古い気がしなくもない(古い=悪いというわけではないが、今はあまり使わないワードをテーマに持ってくるのはどうか、という意味で)。その意味では、2本目の「隣の部屋がうるさい」というネタの方がまだ一般的なテーマ。ただ、こちらは「さしすせそ」のようなハッキリした着地点が無い分、1本目に比べると、ネタの輪郭は薄くなってしまった。
いずれにせよ、ツッコミのセンテンスの豊富さはもう見ている側も十分わかっているので、そのツッコミを待たずとも鰻のボケだけでも笑えるネタを、そろそろ見てみたいところ。


スーパーマラドーナ…91点(審査員:90.3点)

見かけにもわかりやすい、ジャイアンとのび太の構図。ただ、今回は、その関係性に因ったネタというより、「田中の暴走」をクローズアップしたネタだった。
個人的には、2人のキャラの違いを前面に押し出したやりとりが見たかったが、田中の暴走ぶりが、意外に客席にはまった。
田中の、棒読みっぽいのだが妙に耳を澄ませたくなる口調と声は、ネタをやる意味では、結構武器になると思う。
上着を着ず、Yシャツだけで出てくる細~いシルエットも、本人のキャラに合っている。
今回、ネタ順がもう少し後ろだったら、最終の3組に残れる可能性もあったのでは。
また、ネタが終わってからのコメント等で感じられる武智の必死さも面白かった(「ひき肉にしてやんよぉ」もぶっ込んだが、見事に不発(^^))が、「3組目にしてようやく…」のコメントは、今田が言うまで待ってほしかったところ。
今回、爪痕を残せたかどうかは微妙なラインだが、今後も、ぶれずに、ネタを突き詰めていってほしい。


メイプル超合金…93点(審査員:88.4点)

抽選とはいえ、まさかのトップバッターでの登場。果たして受け入れられるかどうか心配だったが、一発目のボケで、反応は良し。
今大会の“いい空気”を作る役割を果たす結果に。
「話が通じる相手じゃないんだから…」といったフレーズ、Wi-Fiが見えるくだりなど、ボケの角度も斬新。
そうしたインパクトのあるところに隠れがちだが、やりとりの構成自体は意外としっかりしている。少しセリフを読んでいる感を感じることもある安藤なつのツッコミも、今回はそんなに気にならず、聞けた。
あとは、最後が決まれば…。「賛否両論…」は、このコンビのキラーフレーズだっただけに残念。
いずれにしても、初見の人にはかなりの衝撃を与えたであろう、このコンビ。THE MANZAIのプレステージでは、今回のM-1と全く同じネタだったが、本放送ではまた違うネタをやっていた。
カズレーザーのあまりに強烈なキャラぶり(その後出ていた芸人報道では、本当にヤバい人の眼をしていた(^^))もあり、今後、テレビでも露出が増えてくることが予想される。
なお、プレビューでも書いたが、昨年、NHK BSで放送された、安藤なつ主演の「ナンシー関のいた17年」は、もし再放送される機会があれば、必見。


和牛…94点(審査員:89.6点)

今回、「結婚式を抜け出してきた女性」、そしておそらく「手料理を作りに来た女性」と、自信のある2本のネタで、優勝を取りに来た和牛。
「結婚式を…」は、時折ネタで使われる設定ではあるが、そのなかでの水田の正論ぶり具合、そしてそれに対して困惑する川西の表情は、素晴らしかった。
ネタ内の流れも、ちゃんと順を追った形になっており、ネタのまとまり具合としては、この日の一番だったのでは。
インパクトのあるフレーズという面では多くなかったからか、得点は伸びなかったが、審査するメンバーが違えば、もう少し得点も上がったように思う。
5~6年ぐらい前はほとんど印象に残らないコンビだった(それこそ、6年前のM-1敗者復活戦では×をつけている)が、この数年で、自分たちの型を見つけた感じ。
なお、2本目の手料理ネタは、水田が元料理人だという事前情報が無いと、その面白さが半減するかもとも思ったが(ましてや、今回はネタ前のあおりVTRが無かったので)、その情報抜きにして、どこまで初見の人に、そのネタの面白さが伝わったかも見てみたかったところ。
スーパーマラドーナと同じく、今回、爪痕を残せたかどうか微妙なラインではあるが、漫才の完成度としては、今回のメンバーのなかでもピカイチ。
漫才巧者として、今後さらに、いろいろなネタを見せてもらいたい。


タイムマシーン3号…94点(審査員:90.7点)

10年ぶりのM-1決勝進出。ちなみに、10年前の決勝メンバーは、ブラックマヨネーズ・笑い飯・麒麟・品川庄司・チュートリアル・千鳥・アジアン・南海キャンディーズだった(優勝はブラックマヨネーズ)。
ネタは「何でも太らせる能力」。やはり巧い。そして、両者とも巧いのがこのコンビの凄いところ。会場のウケも相当とった。
ただ、審査員の得点は思いのほか、伸びなかった。結果は、最終決戦まで2点届かず。
ネタ終わりに、関が「これまで…、ありがとうございました」といったコメントを言ったのが気になった(一瞬「解散」という言葉もちらついたが、たぶん、結成15年目ということで、今回がM-1ラストイヤーという意味を込めての言葉だったのだろう)。
正直、昔から見ていた、いちお笑いファンとしては、最終決戦に残ってほしかった。
ただ、あとで冷静に振り返ってみると、残れなかったのは、何かが足りなかったんだろうとは思う。今回で言えば、「言葉遊びに終始している」ととらえた人もいたとか…。
10年前にも書いたのだが、関のデブキャラを前面に押し出したネタは、実はこのコンビの本当の面白さを引き出すネタではないようにも感じる。おそらくもう1本やる予定だったであろう落語ネタは、そんなにデブキャラに頼ったネタではないが、NON STYLEが、井上のウザキャラを封印してM-1グランプリを優勝したように、タイムマシーンも、関のデブキャラを出さないキラーネタの型を作ったらどうだろうか。
最終的に3組に残れなかったという結果を見て、そんなことを思った。


トレンディエンジェル…94点(審査員:91.7点/最終決戦 優勝)

敗者復活から勝ち上がり。そして、決勝2位に入り、最終決戦で見事優勝。
ちなみに、敗者復活を見ての印象では、このトレンディエンジェルに加え、チーモンチョーチュウ・笑撃戦隊・POISON GIRL BAND、そして、とろサーモンあたりが、勝ち上がるべきネタだと感じた。

さて、トレンディエンジェル。もはや、トレンディエンジェルワールド(TAW?)とでもいうべき、世界をほぼ確立している。
自己紹介での斎藤のポーズをピストル打ちに変えたところで、すでに観客のハートを射抜いていた(^^)。
実は決勝では結構噛んでいたのだが、それをも吹き消す、ネタの勢い。
ネタの幹となるのは「ハゲ」というワードなのは言うまでもないが、他の要素も、笑いを途切れさせずに持続させるのに一役買っている。
たかしの甲高い声と、客の気持ちを代弁するようなツッコミのセリフ。斎藤の、スーツの着方の微妙なよれ具合。
そして、何よりトレンディエンジェルを、見ている側が幸せな気持ちで見られるのは、「間抜けな泥棒とその手下」のような“構図”だと思う。たとえて言えば、ちょっと古いが、タイムボカンシリーズのボヤッキー一味のような感じか。
“せせこましさ”と“意味の無さ”を、見事なテンポで見せるところに、このコンビの魅力がある。
「賑やかし」というポジションから、漫才のメインストリートへ。
この数年の躍進ぶりは、本当に素晴らしいと思う。


ということで、各コンビについて振り返ってきましたが、大会全体を通じて感じたのは、プチ感想でも書きましたが、「勝者は1名だったが、敗者となった芸人も、いずれ勝者になってほしい」という思い。
今回のM-1、全体の声を総合すると「どの組も面白かった」という声が多数。
優勝したトレンディエンジェル以外の組も、見ていた人の心に、ある程度の爪痕を残せたのではと思います。
M-1ではただ一度の決勝出場に終わったタカアンドトシ(結成10年目での決勝出場だったため)も、その後、時間差で「欧米か」が浸透し始め、現在のポジションを築いています。
当然「M-1優勝が最終目標」という思いは、各組あるでしょうが、こと“漫才師”としてのことを考えれば、M-1優勝はすべてではないし、ゴールではない。
各組のネタを見て“漫才ネタの復権”も感じた今回。
来年以降も、M-1を足場にして、さらなるステップアップをする芸人が多数出てほしい、そんなことを感じた5年ぶりのM-1でした。


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by momiageculture | 2015-12-28 00:42 | お笑い | Comments(0)

お笑い・音楽レビューを中心に続いています。細々と更新し、20年目。SPECIAL OTHERS、スカパラ、ゴッドタン、クイズ☆タレント名鑑 etc。/スポーツ系記事はこちら→http://agemomi.exblog.jp/


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