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「THE MANZAI 2012」レビュー

先週末、行われた「THE MANZAI 2012」。
昨年のレビューでは、「この大会の一番語られるべきは『パンクブーブーとナイツのどちらが面白かったか』ではなくて、『Hi-Hiやテンダラーが脚光を浴びた大会』という部分」と書きました。

放送から1週間経ちましたが、今大会を一言で表すと「勝者が何組かいた大会」。

Aグループ4組の、かつてないほどのハイレベルな争い(テンダラー、ウーマンラッシュアワー、ハマカーン、オジンオズボーン)。
久々に賞レースに出てきたNON STYLEの、まったく錆び付いていない漫才っぷり。
そして、予想外だったアルコ&ピースの大爆発。
その他でも、票は入らなかったものの、スーパーマラドーナあたりは爪痕を残せたと思いますし、磁石もオール巨人の「辞めたらアカン」という言葉を引き出しました。

そういう意味では、漫才の底力、そしてプロ芸人の「念」を感じた大会でした。


以下、各組についてレビューを。

【Aグループ】

テンダラー
今年は「仁義なき戦い」エンドレス。
昨年のトップバッター囲碁将棋は、「果たしてオープニングアクトとして大丈夫か?」という不安があったが、今年はまったく心配なし。
「安定感」という言葉とは若干違うが、とにもかくにもまったく心配なく見られるというこの鉄板ぶりはなんだろう(^^)。
観客の方も最初は手探りで見始めることの多いのがお笑いのコンテストだが、最初からかなりの温度まで持っていく役割プラス、トップバッターから決勝進出の候補に。

ウーマンラッシュアワー
実は、今大会の優勝候補と見ていたコンビ。
何のネタで来るかと思ったが、今回の勝負ネタは「八つ当たり」。
村本の切り返しが今回も冴える。中川パラダイスの声高なツッコミもいつもと同様。
ただ、後ろにまだ強敵が控えるのでこれだけでは弱いかなと思っていたところで、ネタ途中で立場逆転、さらにそのすべてに切り返しという二段重ねの展開。
十分な手応えの残してのネタ終了(ただし、最後に捌ける方向だけ間違えた)。
なお蛇足だが、ネタ中、中川の熱が入ったときに、ちょっと腹が見えるのが気になった(あまり見たいものではないという意味で(^^))。

ハマカーン
正直、9月のプレ番組を見た印象では、あまり期待をしていなかった。「下衆の極み」ネタを見始めたのは、2009年M-1の年あたりから。そのときは、「いい武器を見つけたな」と思った(そのときは、本戦・敗者復活含めてベスト9に入ってもおかしくないというインパクトだった)が、2年経った昨年もあまりネタの内容は変わらず。さらに今年のプレ番組でも大きく変わった様子は見られず。
本戦サーキットの具体的なネタ内容はあえて情報を入れなかったこともあって、どうして決勝に上がってきたか不思議、という感すらあった。
しかし、ネタが始まると、いつもと様子が違う。今までも、神田がネタ途中でボケることもあったが、それはあくまで「端」的なもの。今回は、ネタの初めから、どちらかというと神田の方がボケ役(とはっきり言えるほどボケという訳でもないのだが)になる展開。
正直そのスタイルの違いに戸惑ったのだが、途中、熱くなりすぎた浜谷が我に返り「私は一体何を言っているのでしょうか?」と言ったところで、会場も爆発。その後も、浜谷が我に返る展開を二度ほど。
あくまで推測だが、「下衆の極み」ネタで開花するかと思われたができなかったハマカーンが、ひねりにひねり出して作り出したのが、今回のスタイルではなかったか。
ネタが面白いどうこうの前に、その裏の見えざる部分に、プロ芸人の意地と厳しさを感じた。

オジンオズボーン
ウーマンラッシュアワーという強敵がいるものの、こちらも勢いに乗れば優勝に手が届く可能性もなくはないと思っていたコンビ。
篠宮が笑顔を一切封印し、しょーもないことをひたすらいいまくるという、完全なるスタイル変更。「思いついたことなんでも言っちゃう」はHi-Hiの専売特許のはずだったが、これだけ畳み込まれると、こちらが本家になりそうな勢い。
個人的には、「ここまで二歩」のくだりの三発目に「二歩ヶ関親方」と言ったのがツボだったのだが、あとでよくよく聞いてみたら空耳で、実際は「二歩ラス・ケイジ」と言っていた模様(^^)(確かに、そんなマイナーなところ、持ってくるわけないよなあ(cf.三保ヶ関親方))。
ネタ自体については、説明不要。
このネタで初めてオジンオズボーンを知ったという人が、そのアホらしさに興味を持ってくれれば、プチブレイクもあるのでは。あとは、今回のネタが「AKB」と時事ものだったので、今後どれだけバリエーションを増やせるか、また時事ネタ以外での汎用性をどれだけ利かせられるかが、さらなる飛躍のカギか。

結果は、テンダラー1票、ウーマンラッシュアワー3票、ハマカーン4票、オジンオズボーン2票で、ハマカーンが激戦を制し決勝進出。

前回の記事でも書き、twitterでも書いたが、本当にハイレベルな4組の争いだったと思う。
結果としては、いろいろな展開を散りばめたハマカーンが勝ち抜いたが、他の3組も、十分、視聴者の心に響くネタだったのでは。


【Bグループ】

トレンディエンジェル
過去の実績的には、4組のなかで一番無いコンビ。
本人たちもそれを自覚していたようだが、それでも今回の11組に入ったことは素晴らしいことだと思う。
ネタはもちろん髪ネタが主だが、会場がトレンディエンジェルを受け入れる雰囲気になっていたので、結構ウケがあったように感じた。「杉田玄白」を持ってきた勇気には感服。
決勝進出どうこうは抜きにして、ずっと笑顔でみられるネタだった。

NON STYLE
つかみは、井上いじり。で、中盤から後半は「おい石田、どこ行くねん」一本で押し切るという力技のネタ。
これも、ほぼ説明不要。
NON STYLEの底力、というか地力の凄さを見た。
「錆び付かない」とは、まさにこういうこと。
可能ならば、まだあと5年は、この漫才力を見たい。

磁石
NON STYLEがかなりの爆発。後に控える千鳥も予選1位の評価ということで、決勝進出を考えると、かなり厳しい状況。
正直、一つ一つのボケは弱いものも混じっていた。2・3年前に見たときに比べると、若干ネタの合間に隙があるようにも感じた。しかし「ブスは待つ!」の効力は、結構あった模様。
改めて見ると、前の組が良すぎたがゆえに物足りなく感じたところもあったので、もちろん平均点以上は行っていたとは思う。
ただ、「すごいぞ、磁石。」と感じさせるには、もう一つ、何か生み出してほしいところ。

千鳥
予選は1位で通過。ただし、予選の審査員と決勝の審査員は違うので、予選の評価はまったく決勝の結果を保証するものではなし。
ネタは「安全交通の『よだれ蛸』と『ポカリ川』」。
正直、千鳥のネタは、ファンタジー過ぎてわからない(^^)ときがあるが、今回は、昨年の『白平』で免疫ができていたこともあり、笑えるネタだった。
千鳥にしかできないネタ、という意味では、存在感を十分見せたネタでもあったと思う。
それにしても、本当にボケの方向性が独特。一回、どうやってネタ作りをしているかを見てみたい。

決勝への切符は、NON STYLEと千鳥が争う展開。
NON STYLEの一点突破と、千鳥の独創性のどちらをとるかが審査の基準と思われたが、結果は、NON STYLE 4票、千鳥6票で、千鳥が決勝進出。
たけしが言っていたような「芸風と審査が一致した」という審査結果では必ずしもなかった(NON STYLEに入れたのは、秋元康、オール巨人、大竹まこと)が、独創性の方に軍配が上がる結果に。


【Cグループ】

スーパーマラドーナ
昨年は、わずか1位差で、決勝大会進出ならず。
今年は予選8位で初の進出。ようやく、檜舞台に上がるチャンスが。
ネタ自体はオーソドックスだが、そのわかりやすさは、意外と今後長く続けていくには武器になるのでは。年齢層問わず、わかるネタというのは結構貴重だと思う(例えば、お笑いコンテストの結果発表のくだりとか)。
「審査員の票」という結果は残らなかったが、ある程度の爪痕は残せたのでは。
ラサール石井が「すごくいい漫才」と言ったように、これからもこのスタイルを続けていいてほしいし、できればさらに進化をさせていってほしい。

アルコ&ピース
「ラテン系言語での漫才」ネタはあるものの、まだコントのイメージが強いアルコ&ピース。
ただ、昨年に続き、今回も決勝大会に勝ち上がってきたということで、本戦サーキットでは質の高い、そしてある程度の人数にも伝わる漫才をやったのだろう(^^)と推測。
それでも、どんなネタをやるか、あまり見当がつかず、始まってみると…。
まさか、アルコ&ピースが、ああした自分たちの芸人人生を逆手にとったネタをやるとは。
一番やらなそうなネタをやった。それぐらい追い詰められていたとも言えるのかもしれないが、逆に言えば、アルコ&ピースだからできた発想だったのかも。
途中から、観客全員が「忍者になって巻物を取りに…」というフレーズを欲している空間を作ったのは見事というしかない。そして何より、酒井の怒られている表情が最高。
最後の酒井の方からの逆襲の流れは、ある意味、本来のアルコ&ピースらしさが出た内容。ややもすると、演じている側の自己満足といった展開にもなりがちなフレーズが並んだが、「忍者になって巻物…」で完全に見ている側の心をつかんだこともあり、観客の反応がネタの展開を後押しする形に。
ネタが終わったときには、「一世一代」という言葉が浮かんだ。

笑い飯
予選では3位と、好成績で上がってきた元M-1王者。
M-1の優勝からはしばらく経っていることもあり、「どんなネタで来るんだろう?」と思って見た。
ネタは「桃太郎の替え歌」という、比較的、一般的なテーマ。
その替え方を、全然違う「ちらし寿司」の方向に持って行ったこと自体は悪くなかったが…。
北島三郎がCMをやっていたのは結構前のことなので、ちょっとネタの幹として持ってくるのは古いように感じた。北島三郎-山本譲二(さらには小金沢)というラインも、同世代の自分はわかるが、20代前半や10代はピンと来ないのでは(さらにマニアックなことを言えば、現在、山本譲二は北島ファミリーではない(^^))。
言い方や発想の面白さでカバーするには、ちょっと難しい材料だったように思う。

エルシャラカーニ(ワイルドカード決定戦勝者)
今回は、すでに決勝進出が決まっていた11組のネタがすべて終わってから発表された、ワイルドカードの勝者。
正直、どこが勝ち抜くか全く見当がつかなったが、結果はエルシャラカーニ。
この発表を聞いたとき、「う~ん、この大会、本当に『ネタ』で選んでるんだな」と思ったお笑いファンは結構いたのでは。
で、そのネタは、今年のお笑いハーベスト大賞のときにもやっていた「ドライブに行った人数」。
「お笑いハーベスト」のときは結構面白かったのだが、そのときほどはウケが来てなかったように感じた。もしかしたら、他のネタの方が、今回の舞台には合っていたのかもしれないが、それでも、このスタイルは個人的には好み。
何の生産性も無い(^^)漫才だが、笑いは残る。
できれば、来年もう一度このスタイルで、観客から拍手が起こる場面が見られたら。

結果は、アルコ&ピースの圧勝。文句無し。


【決勝】

ハマカーン
1回戦に続いて、神田の「女子」ネタ。改めて見ると、浜谷のキレ方のバリエーションの多さに工夫を感じる。途中の神田の女子っぷり(?)に、観客から「キャー」という悲鳴が上がったことが、逆にハマカーンが客の心をつかんだ表れのようにも思った。

千鳥
「おとな電話相談室」と、昨年に続き電話ネタ。
ちょっと、内容が特異すぎたせいか(^^)、ちょっとネタから気持ちが離れる瞬間を作ってしまったか。ただ、コンテストという枠を取り除いて考えれば、ネタ自体は、千鳥らしさを出せているネタだったと思う。

アルコ&ピース
一ネタ目と似たような入りで、ちょっと嫌な予感。しかし、途中から展開を変更。
よくよく振り返ると、「笑い」の要素はまるで無い(^^)が、一ネタ目の続編という感じで、まあ、これはこれでもういいんじゃないかという気に。それぐらい一発目の衝撃が強かったアルコ&ピース。
今回、初めて見た人は、毎回ああいう青春チックなネタをやっているコンビと思う人もいるかもしれないが、今後、自分たちの本来のネタをやれる素地を作ったという意味でも、本当に大きな足跡を残した大会だったように思う。

結果は、ハマカーン8票、アルコ&ピース1票、千鳥1票で、ハマカーンが結成13年目での優勝。
なお一点、国民ワラテンにおいて、決勝での千鳥1位、とCグループでの笑い飯1位は、実際の面白さとは乖離しているように感じた。昨年は、Hi-Hiのグループ勝ち抜け決定という、プラスの演出効果をもたらした国民ワラテンだが、ボケの頻度によって不公平さが出てしまう可能性も含めて、方法を再考する必要があるのでは。


本題に戻って、ネタの大きな路線変更含め、大会前はまったく予想していなかった、今回のハマカーンの優勝
実力がありながら、M-1では決勝に蹴られ続け、昨年の「THE MANZAI」でもほとんどインパクトを残せなかったといった道程を経ての栄冠。
「バイきんぐ」や「サンドウィッチマン」とは、また違った苦労を経ての優勝に、感慨深いものがあります。
正直、3年前の漫才でも十分M-1の決勝に進出してもおかしくないポテンシャルがあったことを考えると、M-1の決勝進出者の選び方が、ハマカーンだけでなく何人かの芸人の可能性を狭めてしまったように感じるところもあります。

ただ、その壁で立ち止まるのではなく、さらにそれを突き抜ける武器をまた新たに作って、手にした優勝。
改めて、「念」の力の大きさを感じた大会でした。
Commented by yuccalina at 2012-12-25 15:00 x
はじめまして。私はずっとハマカーンを応援していたので、THE MANZAIの夜は興奮して中々寝付けず、最近やっと落ち着いてきた感じです。今回の優勝は漫才の素晴らしさは勿論ですが、くじ運の良さもあった気がします。B組でNON STYLEが敗退したのが大きかったような、、。ファイナルで当たってたらどうなったか。
Commented by momiageculture at 2012-12-26 01:12
コメント、ありがとうございます。
確かに、NON STYLEも面白かったですね。でも、どこが勝ち上がってきたとしても、ハマカーンはいい勝負をしたと思いますよ。
逆に言えば、Aグループは、ウーマンやオジンオズボーンが上がってきてもおかしくなかった。そこを勝ち抜けたのは、ハマカーンの「構成力」を押した審査員が他より1人多かったからで、それを引き寄せたのはハマカーンの執念といっていいかもしれません。
これを機に露出が、しかもハマカーンの良さがさらに引き出されるような露出が増えるといいですね。
Commented by シノブ at 2012-12-31 11:02 x
英智のブログ記事にコメントいただいたものですが、来て見たらTHE MANZAIの感想が私とほぼ同じだったもので、ついコメントしてしまいました(笑)
どのコンビに対しても同意したいことばかりなのですが、特にエルシャラカーニの「何の生産性もないが面白い」、私はエルシャラ好きなんですけど、どういうところが好きなんだろう?って思ってたのがこれですっと納得できました(笑)
Commented by momiageculture at 2012-12-31 13:35
>シノブさん
コメント、ありがとうございます。
twitterの拙つぶやきを、お気に入りに入れたいただいた関連で、ブログを訪問させていただいた次第です(^^)。
ハマカーンは、ブログで書かかれているように、神田が磨かれたことで、大きく前に踏み出した感がありますね。
エルシャラは、評論家いらずの漫才ということで(^^)。
来年の「THE MANZAI」も、苦しんで何かを生み出した芸人がスポットを浴びる大会になってくれるといいですね。
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by momiageculture | 2012-12-24 01:12 | お笑い | Comments(4)

お笑い・音楽レビューを中心に続いています。細々と更新し、20年目。SPECIAL OTHERS、スカパラ、ゴッドタン、クイズ☆タレント名鑑 etc。/スポーツ系記事はこちら→http://agemomi.exblog.jp/


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